お役立ちコラム

2024年07月04日

オフィスで昼寝!?「パワーナップ」のススメ

 欧米のビジネスシーンを中心に、ワーカーの健康維持、生産性向上に有効であると話題になっていた“パワーナップ”という言葉が、近年、国内でも聞かれるようになってきました。パワーナップ(Power Nap)とは、米国の社会心理学者ジェームス・マース氏が提唱した昼間の短時間仮眠であり、Power upとNap(昼寝/仮眠)を組み合わせた造語です。一般的には、15分~30分程度の短い仮眠がよいと推奨されています。

 2024年6月、「Well-being×ICTによる新しい働き方の発信地」をコンセプトにグランドオープンした「アーバンネット御堂筋ビル(※1)」でも、入居者が仮眠を取るための小部屋「ナップルーム」を完備するなど、昼寝や仮眠に関する需要は確かに高まってきているようです。


※1アーバンネット御堂筋ビル

 5月末に開催されていたオフィス・ファシリティの国際専門展示会「オルガテック東京2024(※2)」に出掛けたところ、わたしたちは、世界初の立ち寝仮眠ボックス「giraffenap(ジラフナップ)」を発見。今回は、そこでの仮眠体験や、企画・販売元のメーカー、広葉樹合板株式会社(北海道旭川市)の代表、山口氏とのお話をレポートします。昼寝は本当によいことなのか、オフィスで昼寝を推奨するならどんな運用をしたらよいのか、気になっていることをまとめました。昼寝を職場で推進しようと検討しているみなさんの参考にしてみてください。

立ち寝仮眠ボックスを体験してみよう

 広葉樹合板株式会社が企画・販売をする立ち寝仮眠ボックス「giraffenap(ジラフナップ)」には「和風」と「近未来」をイメージした2モデル(フォレスト、スペーシア)があります。

 こちらは和風をイメージしたフォレストです。格子調のデザインが特徴的で、木目を生かしたナチュラル感から、硬質的なイメージをもつスペーシアよりも人気のモデルとのこと。円柱という丸みを帯びたデザインは、四角柱よりも温かみがあり、気軽に使いたくなります。






©giraffenap

 こちらが近未来をイメージしたスペーシアです。天面と底面に丸みをつけたカプセルポッド型。床からの浮遊感があり、中に入ると適度な暗さですぐに寝てしまいそう。立ち寝と聞いたときにはどんな感じになるのか想像がつきませんでしたが、これならスッと寝られそうです。






©giraffenap

■立ち寝の体勢制御について

 立ち寝のアイデア/特許は株式会社イトーキの保有するものですが、ビジネスマッチングの機を得て広葉樹合板株式会社にて製品開発がスタートしました。マーケットのテスト期間を経たのち、今年1月に「giraffenap(ジラフナップ)」の名称で正式発売されました。以前から横になって休憩・睡眠するカプセルが他社製品ではあったそうですが、立位状態で体勢を支持できる点が「giraffenap(ジラフナップ)」の特長です。

 特許内容を確認してみると、上腕部、臀部、膝部、足裏の4点で立位を支持して、寝姿勢をキープしているよう。構想段階では、異なる身長の人体でも対応するよう、上腕部、臀部、膝部、それぞれの支持部を可動式で考えられていたようですが、実用に向けた開発の初期段階で、「3点が動かせてしまうと体勢が決められない」ということが判明。そこで思い切って、膝のパッドを固定にして、可動箇所を3箇所から2箇所に減らしたとのこと。可動箇所を「増やす」ではなく「減らす」という、思い切ったアイデアで「使いやすさ」「心地よさ」を実現したようです。


 物は試し。早速わたしたちも仮眠体験をしてみました。

 アームパッドや座面はボックス内部のパネルで高さが調整できました。操作も簡単なので、すぐに自分の寝やすいベストな姿勢に合わせられます。膝を乗せるパッドは固定されているのでしっかり安定しています。このパッドに膝を固定させたあと、アームパッドと座面の2箇所を調整していきます。







上)可動部の操作パネル(フォレスト)
下)膝を乗せるパッド(フォレスト)

■機能面、衛生面について

 耐震性については、株式会社イトーキの設備で実験を行い、震度7が観測された東日本大震災クラスでも転倒しないことを実証済み。防音性能については、スペーシアの方が遮音性に優れているそうです。消防法を遵守して、外部の音を完全に遮断しているわけではないため、緊急時のアラームなどは聞こえるようになっています。

 スペーシアは不燃メラミン化粧板を用い、高い防火性能を備えています。天井部分に換気口と火災感知器があり、緊急時のための自動消火装置を搭載しています。

 フォレストはその外観デザインに表れているように、木組みの格子に不織布が貼られていて、室内の微粒子とCO2を軽減できる密閉気流システムで、清潔な空気環境を整えています。

          左)スペーシア室内 右)フォレスト室内

 気になる衛生面ですが、両モデルともシート表皮には撥水・撥油性の高い布地を使用しており、汚れが染み込みにくく、かんたんに手入れできます。使用する際は、アームパッドに除菌シートなどを併用することで衛生を保ちます。

 ボックスの中では上腕部に体を預ける格好になりつつ、上腕部、臀部、膝部、足裏の4点で寝姿勢が安定しているため、思いのほかリラックスできました。オフィスの中に、こうした明らかに“寝てもいい場所”があるなら、安心して昼寝ができそう、と思いました。

オフィスの生産性を上げるパワーナップ

 「giraffenap(ジラフナップ)」体験後、広葉樹合板株式会社の山口氏にお話をうかがいました。「そもそも昼寝って良いの?」「机で寝るのと何が違うの?」などの質問を通して、パワーナップの有用性やオフィスでの運用について迫ります。








広葉樹合板株式会社 代表取締役 山口裕也氏

山口氏:眠気を感じた時にパーキングエリアで5分くらい休憩するのと同様、仕事中の仮眠も有効であると考えています。元々はスペインを中心としたヨーロッパの昼寝制度であるシエスタが発祥と聞いていますが、ご存じの通り、今ではパワーナップという概念として、欧米で注目されています。パワーナップの考え方だと、仮眠を取るタイミングは午前11時から午後3時まで。それ以降に仮眠を取ると、夜の睡眠に支障が出るといわれています。

 私たちは15分~30分程度の仮眠を取ることで、集中力と作業効率が上がると考えていて、「職場の昼寝は作業効率が上がる」という統計が出ているという話も聞いています(★)。オフィス利用を想定して企画した「giraffenap(ジラフナップ)」ですが、マーケットの反応では、大学教授など頭を使うことが多い職場や、医療系や介護系など「夜間・交代勤務」で睡眠が不規則になりがちな業種からも導入したいというお声をいただいています。そのほか、空港のラウンジなど仮眠を必要とする場所に導入いただくことも想定しています。

オフィスでの「昼寝」の運用を考えてみよう

山口氏:長時間、同じ姿勢で座って仕事していると体に負担が掛かり、さまざまな不調の原因になります。自分のデスクで仮眠を取られる方もいますが、机で寝るとお腹が圧迫され、腰から下は仕事中と同じように、圧が掛かりっぱなしになります。したがって、職場での昼寝は「立ち寝」の方が、社員の健康面により配慮する仕組みになると私は考えています。

 また、人は「立ち寝」をすることで、軽い睡眠レベルまで到達できます。このことは、「giraffenap(ジラフナップ)」を使った実証として、北海道大学・国立成功大学(台湾)との共同研究で明らかになりました。一方、座ったり横になったりして寝ると熟睡してしまうおそれがあり、起床後の業務に支障が出る可能性があります。息抜きとして「立ち寝」で昼寝をすることは、健康面でも仕事面でもオススメです。

「giraffenap(ジラフナップ)」については、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が主催する第4回「蔦屋家電+ 大賞」で入賞することができました。特に女性の方から「安心して寝られるのですごく良い」と感想をいただいています。こうしたことから、オフィスにも人目を気にせずに立って寝られるプライベート空間を設けると、本当にリラックスして仮眠することができるのではないでしょうか。

 私としては、日本特有の「仕事中に寝るのがダメ」という文化を変えたいですね。たとえ仕事中だとしても、従業員が眠気を感じたら正々堂々と仮眠を取っていい環境と雰囲気を、ぜひ職場でつくっていただきたい。諸外国と比較すると日本の生産性はまだまだ低いといわれているため、この仮眠の文化を浸透させることで、職場で働く従業員の集中力や、その企業の生産性向上をサポートしていきたいです。

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 お忙しいなか、取材に答えていただいた山口代表、ありがとうございました。眠いなら我慢せず積極的に仮眠を取る、それが当たり前になるとよいなと感じることができました。今年、厚生労働省より「健康づくりのための睡眠ガイド2023」が発表されましたが、この「成人版」を見ると、適正な睡眠時間には個人差があると認めつつ「6時間以上を目安として睡眠時間を確保する」ことが推奨されています。また、睡眠時間が短いことによる健康リスクも明確に示されていて、日本人の働き世代はまだまだ睡眠不足であることがうかがえます。みなさんの職場でも、パワーナップについてしっかり検討してみてはいかがでしょうか。

 
          アーバンネット御堂筋ビル「ナップルーム」


厚生労働省「睡眠対策」

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